台所に立つ前、ふと思い出すことがある。
以前、あるアイドルグループのメンバーが好きな料理として挙げていた一皿の話だ。異国の香りをまとった料理を、日常の延長のように語っていた。その距離感だけが、なぜか記憶に残っている。
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この日は、パーティの持ち寄り料理の試作をする予定だった。
一度作っておかないと落ち着かない、そういう性分もあって、結局は買い出しから片付けまで含めて、ほぼ半日を費やすことになる。
まずバスマティライス400gを水に浸す。

ただ白い粒が水の中にあり、時間が流れていく。それ以上でも以下でもない。そのあいだに羊肉500gに下味をつける。使うのは塩だけ。余計なことはしない。指で塩をなじませると、肉の重さと冷たさがそのまま手に残る。

鍋を二つ出す。
一つには水を張り、シナモンスティック1本、ローリエ1枚、クローブ4本、潰したカルダモン1つを入れて火にかける。沸騰するまでの間、まだ輪郭の定まらない香りが立ちのぼる。完成を主張しない、準備の匂いだ。
玉ねぎ1玉、にんにく2片、しょうがを少量を切る。包丁の音が一定に続く。何も考えなくてもいい。ただ切る、という行為だけが時間をつないでいく。
もう一つの鍋ではギー30gを溶かし、スパイス(カルダモン8ヶ、シナモンスティック1本、唐辛子2本、クローブ8本)を入れる。


油の中で香りが開いたところに、スライスした玉ねぎを加える。

焦がさないように火を入れていくと、それぞれの風味が少しずつ立ち上がってくる。にんにくとしょうがも加え、鍋の中が賑やかになる。
下味をつけた羊肉を入れ、色が変わるまで炒める。

ここでカイエンヌペッパー少々とターメリック4-5gを加える。この段階で塩加減を決める。後戻りはできない。その一点に集中する時間が、この料理のいちばん面白いところかもしれない。
別の鍋では、浸水させた米を七分だけ茹でる。このとき湯に少量の塩と油を加えると良い。
完全には火を入れない。あとの工程に委ねるための火入れだ。


茹でた米を、肉の鍋に重ねる。混ぜない。層を崩さないように、そっと広げる。蓋をして弱火にかける。音と香りを頼りに、火を止めるタイミングを探る。ここからは、経験とも理屈とも違う領域に入る。
おおよそ5-6分程度だが、もちろん鍋の中の水分によって異なる。

火を止めて10分程度の蒸らしを終え、いよいよ蓋をとる。
最後にピーナッツ50gを加えて、ざっくりと混ぜる。
米をつぶさないように、下から返す。

皿に盛り、スプーンを入れる。
湯気が立ち、粒がほどけ、口に運ぶまでのわずかな間に、台所で過ごした半日が静かに折りたたまれていく。
